絵が描けない人はトレースにこそ上達の道がある
絵をトレースすれば、着実に絵のスキルを伸ばせる

絵が下手な人でもどうにか絵が描けるようになるコツ3回目。今回のテーマは練習法です。
前回、タブレットを使うといつでもどこでも絵の練習ができるという話をしました。今日は実際私がやっている練習法を紹介したいと思います。
人によってはかなりの時間がかかるかもしれないものの、着実に絵の経験値を増やしていける方法、それがトレースです。
絵が下手すぎて、模写さえできないという悩み
ネットで「絵が上手になる方法」を検索すると、よく出てくるのが「模写をするといい」という回答。そういえば子どもの頃、習字でもリコーダーでも、先生のお手本をよく真似したものでした。何事も真似事から始まるとも聞きます。
けれども、模写――絵を真似することは簡単じゃないと思います。
きれいな曲線ひとつを真似るだけでも、線はガタガタ、しかも線の延びている方向がなんか違う、とボロボロです。美術の授業で普通の成績をとれる人にはさほど難しくないのかもしれませんが、私にはとても無理でした。
あぁ。絵がうまくなる近道ともいわれる模写さえできないだなんて……。
線をなぞるだけだったら、小学1年生でもできる
絵を書くには、どうしても下書きとなる線が必要。スケッチ技術の習得は避けて通れません。
もし真似るのが難しくて無理だったら、上からなぞるというのはどうだろう? そう考えて思いついたのが、トレースでした。
複雑そうに見える風景画や肖像画でも、もし「上からなぞっていい」といわれたらできそうな気がしませんか?
私は仕事で小学生にタブレットを教えていた時期があります。タブレットを使ってお手本の文字や線をなぞる練習があったのですが、小学1年生でもちゃんとできていました。ですので大丈夫、きっとあなたにもできますとも。
ただなぞるだけでは意味がない。トレースのコツをおさえるべし
お絵描きソフトのレイヤーまたはトレース機能を活用

トレース練習法自体は、さほど目新しいものではありません。私もスケッチ教室に通っていた頃、お手本の絵をトレースしてそれに色塗りをするという練習をしたことがあります。
手順としては、トレーシングペーパーの上からお手本の線をなぞり、ひっくり返したトレーシングペーパーを紙にテープ留めして、上からコインでこすって転写するというもの。いくつもの花がついたような植物絵だと、それなりの手間がかかります。私も教室でこそやったものの、あえて家で練習としてやろうとは思いませんでした。
と、アナログでは面倒な作業だったトレースも、デジタルでお絵描きソフトを使えば簡単!
絵の教本をデジカメやスマホで撮ってPCに取り込めば、上からなぞることができるんです。タブレットだったら、写真を撮るのもなぞるのもこれ1台。前回の記事でご紹介したように、私は喫茶店や図書館でよくお絵描き練習していました。

トレース用としておすすめな絵の教本はドリル系
上の写真で私がトレースしていたのは、『水彩画「下書き」の裏ワザ』 という本です。「山を描くなら「へ」の字を描く」というように、これを描くならこう描くべし、というテクニック集です。中に出てくる制作工程の図をトレースすることで、知識として頭に蓄えているわけです。
どんな本でもトレースの教材になります。以前買った絵の描き方の本、「こんな絵を描けるようになりたいな」と憧れている絵描きさんの画集など、好きな本を選んでみてください。風景や動物の絵をやりたい人は、写真を下絵としてトレースするのも勉強になります。
もし迷った場合のおすすめとして。最初の1冊目は、ドリル系の本をおすすめします。ドリル系の本には1日30分もあればできる絵の練習が多数収録されており、継続して取り組むことによって力がつくようになっています。
ドリル本の特徴は、解説が手順よりもコツ中心になっているところ。絵の描き方本より、ドリル本のアドバイスの方が実践的でわかりやすい、と個人的には思います。
ドリル本も、プチイラストだったり、15分で描く小物だったりと、テーマがいろいろです。本屋さんで見て、自分がやりたいテーマのものを選んでみてくださいね。
ただなぞるだけでは意味がない。コツを押さえることが肝心

トレースには大事なポイントがあります。それは、ただ無心に線をなぞるのではなく、意識して線をなぞること。
上の写真は、『毎日描きたい パソコンイラスト描きかた帳』 というイラストの描き方本のトレース例です。私は線をなぞり始める前に目立つ色で描き込みし、各部のバランスを見るようにしています。この一手間で、トレースから得られる絵の経験値がぐんと大きくなるんです。
例えば、萌え系の絵が描きたくて美少女のイラストをトレースするとします。
その際、「長い線をどこで区切っているのか」「顔に対する目の割合、位置はどうだろうか」など、絵全体からコツを探ります。線をなぞることだけに意識が行ってしまったトレースでは、絵を描く経験値とならないので注意が必要です。
またトレースした後に、「もしもう少し目が上だったら、見た目はどう変わるだろう?」とあえて目の位置を変えてみるなどの試みもグー。疑問に思ったことはどんどん試してみてください。
線画をマスターしたら、色塗り、表現技法へ
絵を描くには、線画+色塗りのスキルが必要

トレース練習で線画を極めたとしても、絵を描くにはもうひとつ大事なスキルがあります。それが色塗りです。
建物や人物の陰影のつけ方、植物に用いる定番の配色など。この色塗りのスキルの方が線画より難しいと感じている方も多いのでは? 線をなぞることは誰でもできますが、色の再現となると少し難しそうな気がしますね。
でもデジタルを使えば、色だってトレースすることができるんです。多くのお絵描きソフトには「スポイト」の機能があります。これはペンやマウスでふれた位置の色を抽出する機能です。スポイト機能を使って見本の微妙な色合いを抽出し、その色を使って練習用の絵を描けるというわけです。
「これじゃ、線も色もただなぞってるだけじゃないか」と思いますか? 線をなぞるときは意識しなければ意味がないという話をしましたが、しっかり意識して行っていれば、なぞるだけでも多くの経験を得られます。実際やってみると、本に出てこなかったコツをいくつも発見すると思いますよ。
混色の習得は、色塗りに十分慣れてから
絵が苦手な人にとって、色を混ぜて目的の色を作る”混色”は至難の業。スポイトで色を抽出して塗っていけば、「この色にこの色を重ねると、こんな色になるのか」とか、「まぶたの下にこの色を重ねると立体感が出るな」など、色塗りに関するスキルを磨くことができます。
このやり方では自分で色を作りません。ただ見本の色を利用しているだけです。
では、混色のスキルはいつ磨くのか? それは、スポイトを使った色塗りを最低1冊はこなした後が良いのではないか、と思います。その頃には、「この色は植物の絵でよく出てくるな」と土地勘ならぬ色勘が多少はできているからです。
混色には混色のコツがあり、別途勉強が必要です。混色を学ぶには、水彩や油彩など自分のやりたい画材に特化した色作りの本や色のサンプル集が役に立ちます。
ちなみに、水彩絵の具ならホルベインというように、水彩と油彩には絵の具の定番がいくつかあります。絵の描き方や色作りについての本は、この定番の絵の具に基づいて描かれたものが大半です(定番なので、文具店で手に入りやすいですし)。
絵の具が変わると同じような名前の色でも色合いが違ってきます。リアル画材の知識がない方は、同じ絵の具を使って描かれた本をトレースしていった方がわかりやすいかもしれません。
技法のトレースは上級者向け
水彩のぼかしやにじみといった絵画技法は、残念ながらトレースできません。
リアル画材を意識したタイプのお絵描きソフトでは、「パレットナイフ」など、技法表現のためのツールを別途用意しているものがあります。このツール設定値をいろいろに変えたり、組み合わせたりしながら、どれが一番見本に近い仕上がりなのか探っていくことになります。時には、同じソフトを使ってるユーザーの創作法をネットで探して参考にすることも。
この試行錯誤は楽しくもあるのですが、絵の描けない人にとってはかなりの難関。技法については上級者向けと考えて、ひとまず脇へおいておくのが無難です。トレースに慣れるのはもちろん、お絵描きソフトの機能を熟知した上で取り組むのがいいと思います。
線画と色塗りのトレースを極めたら、自分の絵を描こう
線画と、さらには色塗りのトレースを何冊かこなした暁には、ぜひ一から絵を描いてみてください。これは誰かの真似ではなくて、自分のオリジナル作品です(マンガや風景をやる人は、パース本のトレースにもチャレンジした方がいいかも)。
これまでのトレース経験から、あなたの頭には絵を描くためのコツがいっぱい詰まっています。葉は線を小刻みにゆらして描く、子どもの目は大人より下げるなど、描こうとする対象に応じたヒントが頭に浮かんでくることでしょう。
もしそこで「やっぱり描けない」と思ったら、少し修行が足りなかったというだけ。描けないと思ったテーマ(花など)について取り上げている本を見つけて、またトレース練習に戻ります。
このように、「トレースで絵の経験値を積む」→「その経験値を元に絵を描いてみる」→「うまく描けなかった部分について描かれた本をトレース」というサイクルを繰り返していくと、少しずつ絵が描けるようになるはずです。
人によっては、数冊のトレースで絵が描けるようになるかもしれません。ある人は何十冊とかかるかもしれません。個人の差はあれど、トレース練習を続けていけば、絵の知識と経験値は着実に増えていきます。ぜひあきらめずに続けてみてくださいね。
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