クラッシャー上司にまつわる永遠の謎
クラッシャー上司の頭の良さが、部下への理解に結びつかないという不思議
クラッシャー上司に関する記事を以前書きました。

けれどもいくら考えても、腑に落ちないことがあります。
クラッシャー上司になるのは、社内でもトップクラスに入るような、”できる人”ばかり。決して頭が悪いわけじゃないのに、どうしてあんなにも人の痛みに鈍感なのでしょうか?
私もクラッシャーだった元上司のことを思い出しては、不思議に思っていました。
あらゆることにかけて鈍感な人であれば、まだ話はわかる。でもそうじゃない。仕事においては、そのひらめきで幾度もビジネスチャンスをものにしてきた人だ。勘は悪くないはず。
あんなに頭が良いのに、どうして部下の気持ちだけはわからないのだろう?
論理で相手を負かすことにかけては敵なしのクラッシャー。だけど……

クラッシャー上司と呼ばれる人たちは、論理思考にはめっぽう強い。それゆえ、彼らに粗を突かれた相手はことごとく押し黙ってしまう。
以前、新人のセールスマンにつらく当たっているクラッシャー上司を目撃したことがあります。まるで猫がネズミをいたぶるように、言葉の刃でじわじわと追いつめていました。セールスが不快なら一言で追い返せばいいのに。決してそうはせず、論理という正義を振りかざして楽しんでいるようでした。
きっと上司は、「オレが勝ったぞ」と思ったに違いありません。けれどもこれは、喉元に言葉の刃を突きつけた”脅し”で相手を屈服させたようなもの。セールスマン自身が「私が悪かったです」と納得したわけじゃありません(※そもそも、新人でやや説明がつたなかったからといって残酷にいたぶられるのもおかしな話ですが)。
ふとした折にこのエピソードを思い返したとき、思ったんです。
クラッシャー上司は、論理で相手を打ち負かすことにかけては百戦錬磨の猛者。けれども、論理という武力を使わず、情を交えて相手を納得させることは苦手なんじゃないだろうか、と。
脳のタイプが問題? 論理の左脳派と感情の右脳派
クラッシャー上司の鈍感さはどこから来たもの?

以前、クラッシャータイプと見られる上司の人がネットの掲示板で部下について相談しているのを見たことがあります。彼(彼女)は精神的に病んでしまった部下を抱えており、中には部下が自殺してしまったという人もいました(ネットなので真偽はわかりませんが)。
事のいきさつを読んでみると、「行き過ぎじゃない?」と違和感を覚える行動があり、他の人たちもそこを指摘していました。でもどの上司の人も、自分のやり方がパワハラだと認識していない様子。腹を立てるわけでもなく、ごく自然に「自分が悪いのだろうか?」と問いかけていました。
この“気付けない”ということが、クラッシャー上司、最大の問題点だと思います。
私もクラッシャー上司に当たってトラウマになる体験をしたけれど、つまるところ、これは認識の違いだろうという思いがあります。今でも、どうにかしてわかってもらえなかったのか、と考えることも。
上司の側には先の例のように自覚がなく、部下に対してひどいことをしているとは夢にも思っていないケースが多い。部下の側でも、はじめは上司を尊敬し、自分も仕事ができる人になりたいと願っていました。
上司と部下、どちらにも悪意はありません。それなのになぜ、両者の間でこうも食い違ってしまうのでしょう?
左脳派の作家(論理思考に強いタイプ)は、人物の内面変化を描くのが苦手
その答えのヒントは、意外なところで見つかりました。
私は趣味で物語の作り方を学んでいるのですが、海外のハウツー本の中にこんな話があったんです。
おもしろい物語というのは、ハリウッドアクションものに見られる”ジェットコースター型”――イベントによって読者をワクワクドキドキさせる――だけでは足りないそうなのです。次から次へと画面が変わっていくおもしろさはあるものの、それでは不完全だとか。
ではなにが足りないかというと、主要人物たちの”内面の変化”。つまり、心理面においても”ジェットコースター”が必要なのだそうです。確かにそうですよね。経験するイベントの数が増えただけで、主人公に精神面での変化が見られず、淡々としていたら共感はしにくいかも。
本の著者の見解によると、作家は左脳型と右脳型の2タイプに分かれます。
左脳型の作家は、外的なイベント(敵に襲われる、財宝を手に入れるなど)や、読者をあっと言わせる仕掛けにかけてはとても巧みです。一方で、登場人物の内面が変化していく過程の作り込みを苦手としています。
左脳は論理を司ります。そのため左脳が発達している作家は、論理でイベントを組み立てるのがうまく、感情の描き方に弱いという特徴があります。対する右脳派の作家は、感情の描き方が細やかな反面、物語を盛り上げるイベント作りに苦手な傾向があります。
あれ、この”論理”と”感情”の関係、どこかで聞いた話じゃないですか。
クラッシャーが描く物語は表面的なイベントだけ。内面が伴わない
そう。物語作りにおける作家タイプの考え方、クラッシャー上司にも当てはまるような気がするのです。
仕事の段取りが的確で、余計な手間をかけず、しかもクオリティの高い結果を出す――それはお得意。でも、部下を育てる、人に教えることは苦手。相手に理解してもらうという行為には、相手側の”内面の変化”が不可欠だからです。
仕事で一人前になるといったとき、実はスキルだけで足りません(これで十分と思っている上司も多いでしょうが)。仕事に対する誇りや責任感、そして自信。内面の成長も伴ってはじめて一人前なのです。
でも論理大好きで感情を軽視しがちなクラッシャーは、スキル面だけに注目します。感情を問うとしても、「顧客の気持ちがわかるか」といったビジネス用途に限られます。
クラッシャー上司が部下に提供する教育や課題を”物語”とするならば。外的なイベントはよく作りこまれているのに、主人公の内面変化はまったくというほど書き込まれていない欠陥作、といったところでしょうか。
彼の「こうあるべき」という部下への接し方は、部下から見れば、退屈を通り越して破綻している物語に映っているのではないか。そんな気がするのです。
クラッシャー上司に心の痛みをわかってもらうのを”あきらめる”
人の考え方を変えるのは、自分の考え方を変えるよりはるかに難しいこと
教育も物語も受け手が存在します。作り手側がいくら満足しても、受け手側を満足させることができなければ自己満足で終わってしまいます。趣味で作る物語であればそれでもかまいませんが、教育ではそうはいきません。
では、どうすればこの点をクラッシャー上司に理解してもらえるのでしょうか?
これはなかなかに難しいと思います。そもそも、”自分が間違っている”と自覚していません。「感情は、女性がとらわれがちなもの」(byうちのクラッシャー上司)なんて言い方をしてくるくらいですから、もう少し人の気持ちを思いやって欲しいなんて申し出たところで逆効果です。
心理学や悩み解決系の本に、よくこんな言葉が出てきます。「他人を変えるのは、自分を変えることよりはるかに難しい」。中には、「相手を変えるのはほぼ不可能」と書かれることも。
「ある程度歳を重ねた大人には、「自分の生き方・考え方はこれだ」という硬い基盤がある。これを他人の力で変化させるのは本当に難しい」
職業訓練校の担任も、私にそうしみじみと語ったことがあります。
あなた自身にも心当たりがあると思います。自分の考え方が大きく変化したとき、その前の過程で「これからはこう考えよう」と意識した瞬間があったはず。
他者や環境によって考え方は影響を受けますが、その影響を心に反映させるか最後に決めるのは自分自身。「こういう考え方もあるんだなぁ。ん~、でも私にはいいや」そうやって心から追い出してしまえば、あなたの考えは今のまま変わりません。上司とて同じことです。
天災だと思って対策をとるのが現実的
つまるところ、クラッシャー上司の考え方・感じ方を他人が変えるのは難しいという現実があります。
台風や火山の噴火のようなものです。人の力はどうしようもないから、日頃から対策し、いざというときには逃げるなどの対応をとるしかない。
当サイトやネットの記事からクラッシャーの傾向を知り、ストレス解消法で心を守って対策をとる。ひそかに異動や転職のために動くのも対策になります。そして、「こりゃ、いよいよだめだ」というときにはすかさず避難する。クラッシャー上司の上司に訴えるのも避難行動ですし、退職をして確実に逃げ切る方法もあります。
理解できない人がいるという現実は悲しいものです。それが尊敬している上司ともなるとなおさら。でも台風と同じで、クラッシャー上司はこちらの願いなんて関係なしに来るときは来ます。せめて、自分を守ることだけはしてください。
もし。いつかわかってくれるという希望を捨てきれないのであれば、無理に捨てる必要はありません。胸に大事に抱えている願いは、その人のオーラとなって滲み出ます。本当にごくまれですが、それに気付いてくれる人もいます。厳しい環境では希望が心の支えにもなってくれます。
けれども、無防備に耐え続けるは絶対やめましょう。必ずなんらかの対策をとってください。それほどの器用さも勇気もないというのであれば、逃げるのが賢明です。
やりきれない気持ちはわかります。こちらはやられ損の被害者です。それでも、台風や火山に文句を言ったところでどうにもなりません。それより、どうやって身を守っていくかを考えた方が後のためになります。
一番最悪のシナリオは、クラッシャー上司に心を折られて、何ヶ月、場合によっては何年も再起できなくなること。それだけは回避できるよう、しっかり自分を守ってあげてくださいね。
コメント(※サイト記事や関連サービスの参考として、匿名で内容を引用させていただく場合があります。あらかじめご了承ください)
コメント一覧 (5件)
とても参考になりました。ただいま絶賛クラッシュされかかってました。気づいたので、ディフェンス強化します。NOなことは歯向かうと角が立たつし、それでも相手が理論破綻していて譲れないときは、どっぷり四つに組まず、サクッと刺して、相手が理解するまで、ヒラヒラリと交わします。
コメントありがとうございます。お役に立てたようで、良かったです。サイトを作った甲斐がありました(^^) ちいさんはなかなか器用な方のようですね。無理のない範囲での善戦をお祈りいたします。
初めまして、こんにちは。とても思うことがありましたので、コメントいたします!
自分自身の今の現状を照らし合わせながら読んでいましたが、とても腑に落ちました。
僕の上司も、とても仕事が出来るのですが、上司自身の価値観を押し付けられ、また仕事の指示の仕方がとてもあいまいで聞くのも怒られ、聞かず進めても怒られ、ちょっとでも遅れると怒られを1年近く続けることとなり、
また、周りがよく思っていない(ホントは全くそうではなかった)と繰り返し延々吹聴され、誰にも相談できるタイミングが作れず心がやられる寸前まで来ていました。
なお、その人が人事考課権を持っていたため、当然ながら階級をひとつ落とされる目に遭いました。
限界を悟り、上司の上司(部長)と上司に一切話せずに複数回話をした上で部署異動が決まり、今月末に異動になります。
スミカさんも大変辛い時期をお過ごしされてたかと思います。
他の記事も併せて何かすっきり出来ました。
長文コメントですみませんが、ありがとうございました!
こんにちは。私もクラッシャー上司に苦しみました。 経歴だけ聞いているとこんなに素晴らしい人はいないし面接ではとても穏やかで、この人だったら・・・と思いました。
1か月たったあたりから、前後矛盾する指示が飛び交うようになり、確認しようとすると大声をあげて罵る、私の過去の人生を推測して決めつける等の行動が始まり、困惑と疲労の日々が始まりました。
何か説明しようとすると、大声で言い訳するな、と怒鳴り散らすだけで解決がありません。
自己保身やウソにたけているし、こちらは立場が弱いので、ただ時が過ぎていくのを待つのみでした。
私もゆーゆぅさんと同じような状況で会議室に呼ばれては、メンバーの〇〇がお前のことを悪くいっている、お前は周囲から不信感と憎悪の目で見られているなどと1時間以上にわたって言われつづけ、気が付いたらあり得ないミスを連発していたり、涙を流していました。
前の会社でも何人もうつ病で彼が理由で退職しているらしく、彼が転職するたびに転職エージェントがくっついてきていました。 彼はそれを「20年来の親友」と呼んでいましたが・・・・。
クラッシャーは管理職としての能力がありません。一人で仕事をするだけが精いっぱいの人間です。
そもそも怒鳴り続ける1時間でなんの解決策がでてきたでしょうか? おそらくクラッシャーの感情がすっきりしただけ(サンドバックかよ)だと思います。
会社はこの人の元では人が長続きしない、とわかったら部下を外してPlaying Manager にすべきだと思います。
記事を読んですっきりしました。 ありがとうございます!
こんにちは。
いままさにクラッシャー上司の餌食になって心を病んでしまっています。会社の仕事やいまの部署の仕事は自分に合っていて定年まで続けられると思っていた矢先、クラッシャー上司のモラハラ、パワハラとも取れる言動に苦しみ、会社で自分の意見もまともに言えない状況になってしまいました。
他人は変えられない、という言葉がいたく胸に刺さります。僕は周りが諦めていたので自分が変えてやると思い、約2年間その上司の直属の部下になってがっぷり四つでやってきました。そして、見事に潰されてしましました。
心を病んだいまは、何をどうしていいかもわからず、言いなりに仕事をする日々が続いています。そして、クラッシャー上司の自由な言動はいまも変わることはありません。
この記事と関連記事を読んで、少し気が楽になったと同時に、自分の不甲斐なさを悔やんでいます。もっと柔軟に対応するべきだったと。これからの立ち振る舞いの参考にしてみようと思います。ありがとうございました。